実務者研修「医療的ケア」完全ガイド
介護の現場で耳にする「たんの吸引」や「経管栄養」。実務者研修で「医療的ケア」を修了すればすぐに現場でできるようになる、というのは誤解です。制度の仕組みと、受講前に知っておきたい落とし穴を整理します。
- 喀痰吸引・経管栄養は法律上「医行為」で、本来は医師・看護師しかできません。
- 2012年の法改正で、介護福祉士や一定の研修修了者も条件付きでできるようになりました。
- 実務者研修の「医療的ケア」(50時間)は、その入口の座学と演習にすぎません。
- 修了しただけでは、現場で吸引・経管栄養はできません。 別途「実地研修」や事業所の登録など、いくつものステップが必要です。
ここを取り違えると、就職後に「話が違う」というトラブルになりがちなので、最初にはっきりさせておきます。
1. なぜ介護職員が医療的ケアをできるようになったのか
以前は、たんの吸引や経管栄養は完全に医療職の仕事でした。ただ在宅や特養の現場では、介護職員が実際に対応せざるを得ない場面が増えていた実態があり、厚労省は「実質的に違法とは言えない」という通知運用でしのいでいました。
これをきちんとした法律の仕組みにするため、2011年に社会福祉士及び介護福祉士法が改正されました(介護職員は2012年4月、介護福祉士本人は2015年4月から適用)。これにより、次の2つのルートが生まれました。
| ルート | 対象 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| A. 介護福祉士 | 国家資格取得者 | 介護福祉士としての登録 |
| B. 認定特定行為業務従事者 | 介護福祉士以外の介護職員 | 喀痰吸引等研修の修了 + 都道府県知事の認定 |
2. 実施できるのはこの5つだけ
法律で認められている行為は、省令で次の5つに限定されています。
- 口腔内の喀痰吸引(咽頭の手前まで)
- 鼻腔内の喀痰吸引(咽頭の手前まで)
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
咽頭より奥まで吸引する、喉頭展開をする、気管挿管をするといった行為は対象外です。また、血糖測定やインスリン注射の補助なども、介護職員が行える範囲には含まれません。
3. 実務者研修450時間のうち「医療的ケア」は50時間
実務者研修全体は450時間で構成されていて、医療的ケアはそのうち講義50時間(+別途演習)を占めます。直前に「こころとからだのしくみⅡ」(60時間)が配置されており、解剖・生理の基礎の上に医療的ケアが積み上がる構成になっています。
演習では、喀痰吸引3種類・経管栄養2種類をそれぞれ5回以上、救急蘇生法を1回以上、シミュレーター(人形)を使って行います。
4. 演習では具体的に何を行うのか
シミュレーターを使った演習の内容は、①喀痰吸引、②経管栄養、③救急蘇生法(心肺蘇生・AED)の3本柱です。細かい進め方はスクールによって差がありますが、大まかな流れは共通しています。
※以下はスクール公開シラバスの一例をもとにした一般的な流れです。厚労省が手順を一言一句定めているわけではなく、評価票の様式や進行順はスクールごとに異なります。実際の内容は受講予定のスクールのシラバスで確認してください。
演習の大まかな流れ
演習の目的・注意事項の説明、感染予防と安全確認の学習
看護師等の講師が手順を実演し、受講者が見学
手指衛生、手袋の着用、必要物品の確認、利用者の状態確認(設定)
口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の吸引、実施後の観察、報告・記録
胃ろう・腸ろう/経鼻経管栄養、注入前の確認、注入の実施、終了後の観察、報告・記録
胸骨圧迫(心肺蘇生)、AEDの使用、気道異物除去など
評価票に沿って講師がチェックし、手順どおり安全に行えるかを確認。規定回数(各行為5回以上が一般的)を満たすことが修了要件
💡 演習で評価されやすいポイント
- 利用者への声かけを省略しない
- 手指衛生は実施の前後どちらも行う
- 一つひとつの工程を確認しながら落ち着いて進める
- 「準備→確認→実施→観察→報告・記録」の流れを崩さない
- 手順を飛ばさない(特に「説明・同意」と「状態観察」が抜けやすい)
これらはあくまでシミュレーター相手の練習であり、次章の「実地研修」で実際の利用者に対応する前段階にあたります。
5. 一番大事な区別:「基本研修」と「実地研修」
ここが誤解の起きやすいポイントです。喀痰吸引等の研修は、法律上はっきり2段階に分かれています。
基本研修
(実務者研修の医療的ケアが該当)
- 座学50時間+シミュレーター演習
- 講師は医師・看護師等
- あくまで「知識と手順を学ぶ」段階
実地研修
(実務者研修とは別に必要)
- 実際の利用者に対して、指導看護師のもとで実施
- 回数の目安:口腔吸引10回以上など
- 「問題ない」と指導看護師が判断するまで反復
つまり、実務者研修でシミュレーター演習を5回やっただけでは、まだ誰にも実施できる状態ではありません。 実地研修まで終えて初めて、現場で行為ができるようになります。
実地研修は実務者研修のカリキュラムには含まれていません。 実務者研修が提供するのはあくまで基本研修(座学50時間+シミュレーター演習)までで、実地研修は修了後に別途、就職先や登録研修機関などで受ける必要があります。実務者研修を実施するスクールと、実地研修を受け入れる事業所は別の主体であるのが通常です。
実地研修の具体的な実施内容
実地研修は、シミュレーターではなく実際の利用者を相手に、指導看護師の立ち会いのもとで行う訓練です。
| 実施場所 | 登録喀痰吸引等事業者(または登録特定行為事業者)の事業所 |
|---|---|
| 対象 | シミュレーターではなく実際の利用者 |
| 指導者 | 指導看護師 |
| 評価方法 | 指導看護師によるプロセス評価(手技の各段階を個別にチェック) |
| 修了の目安回数 | 口腔内喀痰吸引:10回以上 / 鼻腔内喀痰吸引:20回以上 / 気管カニューレ内部喀痰吸引:20回以上 / 胃ろう・腸ろうによる経管栄養:20回以上 / 経鼻経管栄養:20回以上 |
| 修了の判断基準 | 回数はあくまで目安で、指導看護師が「問題ない」と判断するまで反復するのが原則 |
6. 現場で実施するために必要な4つの条件
実務者研修を修了したあと、実際に現場で喀痰吸引等を行うには、次のすべてが揃っている必要があります。
- 介護福祉士として登録されている(または認定特定行為業務従事者の認定を受けている)
- 実地研修を修了している
- 勤務先が「登録喀痰吸引等事業者」として都道府県に登録されている
- 行為ごとに医師の指示書がある
特に③は見落とされがちです。個人が資格を持っていても、勤務先の事業所が登録されていなければ実施できません。 就職先を選ぶ際、この登録状況を確認しておくことをおすすめします。
7. よくある誤解Q&A
Q. 実務者研修を修了すれば、すぐに現場で吸引ができる?
👉 できません。 実地研修・事業所登録・医師の指示書がすべて揃って初めて可能になります。
Q. 「医療的ケア」は資格の名前?
👉 いいえ、科目名・研修テーマです。 独立した国家資格ではありません。
Q. 実務者研修の医療的ケアを終えると、喀痰吸引等研修(第1号・第2号)は免除される?
👉 基本研修部分(座学50時間+演習)は免除されます。 ただし実地研修は別途必要です。第3号研修(特定の利用者のみ対象)は別体系なので、免除の対象外です。
Q. 実地研修を実施していない事業所に就職したら?
👉 資格があっても、その事業所では喀痰吸引等はできません。 事業所が新たに登録するか、他の登録喀痰吸引等事業者で実地研修を受ける、あるいは第3号研修(特定の利用者限定)を利用する、といった対応が必要です。
8. 受講前に「スクールへ確認すべきこと」
法律で決まっている部分と違い、次の項目はスクールや自治体によって運用が異なります。受講申し込み前に必ず確認しましょう。
- 講義50時間の形式(通学/通信/eラーニングの比率、スクーリング日数)
- 演習の日程・場所・講師体制(同時受講者数の上限など)
- 修了評価の基準(筆記試験の合格点、実技チェックの詳細、再試験ルール)
- 実地研修の提携先の有無(自法人内か外部紹介のみか)
- 受講料の内訳(教材費・実地研修紹介費用の扱い)
まとめ
医療的ケアは、介護福祉士のキャリアの中でも「制度の階段が多い」分野です。実務者研修はあくまで最初の一段目であり、そこから実地研修、事業所の登録、医師の指示という段階を経て、ようやく現場での実施につながります。
この階段の全体像を先に知っておくことで、就職活動やキャリアプランを考えるときの見通しが立てやすくなります。
※本記事は2026年7月時点の一次情報(厚生労働省通知、社会福祉士及び介護福祉士法等)をもとに作成しています。制度改正の可能性があるため、最新情報は厚労省・社会福祉振興試験センターの公式情報でご確認ください。
介護福祉士への第一歩を踏み出しませんか?
当スクールでは、働きながらでも無理なく通える充実のサポート体制をご用意。
給付金制度の活用や、費用面・実習に関するご相談も丁寧にお答えします。
